世界の石油市場について三大市場の特徴を初心者向けに解説
1.石油取引が行われる市場
石油価格の決定は、かつて石油メジャーが大きな影響力を持っていました。しかし、1973年に起きた石油ショックにより、OPEC(石油輸出国機構)が主導権を握った経緯があります。その後1980年代に入ると、米国で石油の先物取引が始まり、立ち上がりこそ生産者側の理解が得られませんでしたが、次第に商いが膨らむと共にOPECや石油メジャーも先物価格を無視できなくなっていきました。現在ではNYMEX(ニューヨーク商業取引所)やICE(インターコンチネンタル取引所)フューチャーズヨーロッパの先物価格が、世界の石油価格の指標になっています。
地域別に見ると、世界の石油取引は消費地別に三大市場が形成されています。一つは世界最大の消費国である米国を中心とする北米市場、二つ目は西欧先進諸国を中心とした欧州市場、三つ目が日本を含めたアジア市場です。それぞれの市場において指標になっている原油(マーカー原油)は異なり、それぞれの地域の需給を反映した価格形成がなされています。
2.北米市場の特徴
北米市場ではニューヨークのNYMEXで原油や石油製品、天然ガスなどの先物取引が行われ、ここで形成された先物価格が指標となり、現物の価格形成が行われています。特に、NYMEXで、1983年3月に上場された原油先物取引(通称WTI:West Texas Intermediate)は、最初は盛り上がりに欠けましたが、OPECに価格主導権を握られたくない消費国側の意向もあり、年々取引が拡大しました。石油メジャーをはじめとした実需筋のみならず、機関投資家、ファンドなどの投機マネーの参入も多く、巨大市場となっています。このようなこともあり、WTI原油は北米地域のマーカー原油として、また、国際的にも高い指標性を有しています。
3.欧州市場の特徴
欧州市場では、ロンドンのICEにおいて北海油田で採れるブレント原油と天然ガス、ガスオイルなどの先物取引が行われ、ここで形成された先物価格が欧州で取引される石油の価格指標になっています。加えて、それに連動(ブレントリンク)するアフリカ産やロシア産原油の指標にもなっています。
ブレント原油先物の取引は、1988年6月のIPE(ロンドン国際石油取引所)に上場されたことに遡り、NYMEX同様、実需筋ばかりでなく、機関投資家、ファンドなど広範な市場参加者を有し、活発な取引が行われていました。2001年にICEに買収され、2005年に名称もICEヨーロッパに変更、現在ではICEフューチャーズヨーロッパの名称となっています。
4.アジア市場の特徴
アジア市場は、他の2市場のように先物市場が価格指標となって、現物価格に影響を与えるという先物主導型ではありません。シンガポールで行われている業者間の相対取引(OTC)のスポット取引価格がベースとなるOTC主導型市場です。ここでは実際に行われた相対取引を価格情報サービス会社が収集・報告し、その報告された価格を参考指標として、個々の取引価格が形成されています。他の2市場と異なり、取引所価格がベースとなっていないため、不透明であるという指摘もあります。
日本の原油輸入価格は、生産国との長期契約に基づいて輸入されるものが多いため、ターム価格やスポット価格などが適用されます。これらの長期契約の原油価格や、日本からの製品の輸出価格は、シンガポールのOTC価格が基準に決定されるケースも多く、日本の石油業者はNYMEX、ICE以外にシンガポールのOTC市場を利用してへッジを行うこともあります。
ちなみに、2001年9月に東京工業品取引所(現・東京商品取引所)の石油市場に、中東産原油が上場されました。このことにより、先行するNYMEXのWTI原油、ICEの北海ブレント原油に次いで、日米欧に原油先物市場が揃うことになりました。
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本記事の監修者・佐藤りゅうじ
1968年生まれ。1993年米大卒業後、1995年2月株式会社ゼネックス入社。アナリストとしてマクロ経済分析をはじめ、原油、天然ゴム、小麦などの商品市場、また為替市場、株式市場のアナリストリポートの執筆、トレードに携わる。2010年1月エイチスクエア株式会社を設立。
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